5業績停滞とMBOしかし、2010年3月期を境に成長の踊り場を迎えることとなりました。この原因としては、大手金融機関向けのニッチな分野でのシステム構築が一巡したことがありましたが、より本質的には、当時、シンプレクスが手掛ける案件は、他社にはできないニッチな分野の難しい案件というブランディングが強く浸透してしまったことで、活動範囲が限定的となっていたことが挙げられます。このような状況に直面するなかで、私は、大手金融機関に私たちのケイパビリティを幅広く認知いただく活動に注力する必要を痛感しました。また、事業環境としては、2008年のリーマンショックに端を発するリスク管理強化の流れを受けて、大手金融機関に向けてトレーディングやリスク管理を統合的に行えるワンプラットフォームを提供する必要性を感じていました。そこで、現場の精鋭たちをプロジェクトから離脱させてセールス部隊を立ち上げ、プロアクティブなコンサルティングセールスを展開しました。ニッチな分野だけではなく、プラットフォーム全体にアプローチする戦略への大転換です。そのために、大手金融機関のキャピタルマーケット部門をターゲットに、今後5年間のITロードマップ作成を無料で支援することからはじめました。そのITロードマップをもとに、数年後に稼働するプラットフォーム全体の構築を請け負う算段です。現場の精鋭たちをプロジェクトから離脱させることから、当然、この間の業績停滞リスクを伴う施策でした。当時は、東日本大震災等の影響もあり、日経平均株価も1万円を割る最安値水準。シンプレクスの株価も下落基調でした。株価水準を鑑み、業績停滞による株価の低下リスクを株主に負わせることはできないと判断し、2013年10月にMBOに至ります。第二創業期と再上場MBOの際に掲げたテーマが、既存事業のブレイクスルーと新規事業の立ち上げでした。結果として、MBO直後よりリスク管理強化のトレンド等の追い風の影響もあり、既存事業のブレイクスルーを果たすと共に、いくつかの新規事業についても軌道に乗せることができました。シンプレクスのビジネスモデルの再現性の高さが新規事業でも証明されたという確信を持って、再上場を叶えたのが2021年9月。コロナ禍で開催を見送ってきた念願の株主懇親会を、2024年6月の定時株主総会後に開催できたのですが、11年越しとなったにも関わらず、当時の株主の方もいらしており、非常に感激しました。シンプレクスが実現するイノベーションシンプレクスは、「これまで世の中に存在しなかったイノベーションを創出し、日本から世界に向けて発信したい」という強い信念をもって起業した会社です。ただし、ここで示すイノベーションとは、スティーブ・ジョブズがスマートフォンによって世界を一変させたようなイノベーションとは異質のものです。スティーブ・ジョブズのようなビジョナリーな経営者が実現するイノベーションには、一般人には想像がつかない未来を見通す力が不可欠です。これに対して、シンプレクスグループが実現するイノベーションとは、誰もが思い描く理想や最適解はあるけれど、困難や障壁が多すぎて実現できていない課題を、他社に先駆けて泥臭く解決していくことで実現されるものです。行動規範としての5DNAそんなイノベーションを実現するために、我々の行動規範として2010年に明文化したのが「5DNA」です。なかでも「No.1」を最も強調しています。困難な課題を一つひとつ地道に解決し、誰もが思い描く理想にもっとも早くたどり着く。私たちが考えるイノベーションを創造する挑戦権は、ビジネス領域のなかでNo.1の実力を持つ会社にしか与えられないものです。だからこそ、「5DNA」は「No.1」からはじまり、そして、創業から27年間、参入した領域では、必ずNo.1になることを徹底してきました。「No.1」をはじめとした「5DNA」は、社内の共通言語として日常的に飛び交っており、人材採用においても重要な指針となっています。イノベーションを成し遂げるためには多彩な才能が必要であることから、シンプレクスグループでは社員の多様性を尊重しています。一方で、付加価値を生み出し続けるためには、全社員で共有すべき強力なカルチャーも必要です。その核となるのが「5DNA」なのです。また、社員の多様性という点でいえば、2021年にクロスピアを創設したことを契機に、近年では新卒採用に加えて中途採用も強化しています。新卒・中途問わず、人材市場トップ10%の優秀な人材を採用し育成する方針は今も変わりません。人材こそが、シンプレクスグループの全戦略を支える礎であり、持続的な成長と高い収益性の実現を支えてくれます。異なる才能を持った優秀なプロフェッショナルが、シンプレクスグループで自己実現を果たす。そんな人生のストーリーに関われる企業であり続けたいと考えています。サステナブル経営と再現性の追求2024年3月期は、私たちのサステナビリティに対する姿勢を明確に示した一年となりました。優先的に取り組むべき重要課題を特定し、経営においてもっとも重要な人的資本に焦点を当て、それぞれの課題に対する具体的な目標を設定しました。(▶Page 33 マテリアリティと主要リスク)私が目指すサステナブルな経営とは、「5DNA」に共感する人材市場トップ10%の優秀な人材を採用し、その才能を最大限に発揮できる環境を提供することです。その活躍が呼び水となり、高い成長意欲を持った新たな人材が志を持って入社してくれる。こうしたポジティブな循環が生まれれば、どんな時代の変化にも柔軟に対応し、次々とイノベーションを創出できると信じています。重要なのは、その時々で必要とされるケイパビリティを獲得するためのプロセスを全社員が共有していることです。これは、正しい方向に正しい努力を重ねることで蓄積したノウハウを活かし、短期間で高い成長曲線を描きながら成果を出し続ける能力である「再現性」に通ずる考え方でもあります。私たちがコンサルティングやシステム開発の現場に限らず、社員の育成や評価においても、常に再現性を重視する理由はここにあります。社会全体のサステナブルな発展に向けてさらに、過去10年間、シンプレクスグループは人材輩出企業としても注目を集めています。現在、多くのスタートアップや上場企業のCEOやCTOにシンプレクス出身者が就いています。優秀な仲間が去ることには一抹の寂しさもありますが、個人的にはそのステップアップを心から喜ばしく思っています。卒業生の活躍によって、人材輩出企業としての価値が高まっていることを実感する日々であると同時に、シンプレクス経済圏のようなものが形成されることは、経営者としての最大の喜びでもあります。このようにシンプレクスグループでスキルを磨いた卒業生がさまざまな業界で活躍することは、社会全体のサステナブルな発展に繋がると捉えています。
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